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裕子の名前に、ふと気になった。 愛くん、君も裕子が好きだったんだろう? あの二人の事は、気づいてる、よな? 「お母さん」 愛くんは呼んで、持っていた荷物を二つ渡して先に帰るよう伝えた。 瞳さんは会釈して行き過ぎる。 「……愛くん、今年は勉強会はなかったんだな」 俺は切り出したが、 「ゆうと真歩を見たんですね」 見抜いたように言われた。 「ああ、うん……その、君もずっと裕子を好きだったろ? 急に現れた子に掻っ攫われたみたいなのって……ごめん、余計なお世話だよな」 俺自身は、勝手に傷ついてるが。 愛くんは、優しく笑った。そんな笑みは初めて見た、とりあえず俺は。 「僕は、彼女の成長を見守る為だけに生きています」 まっすぐ見つめられて言われた。 「彼女の幸せが一番です、彼女と結ばれたいとは露ほどにも思っていません。仮に彼女がそれを望んでも断ります。そして、それまでゆうが心を焦がして、この人しかいないと位置付けた男がいたとしても、真歩の前では無意味です。彼女は全てを投げ出してでも真歩の元に走るでしょう」 「……それって」 俺のことか、と言いかけて止めた。 愛くんは何処まで知っているのだろうか? 裕子が話した? 「あの二人は、生まれる前から結ばれる運命だった。あの二人を割く事はできません」 「……」 それは。 今度があればと言う俺の決断を、真っ向から否定する内容だ。 「……君がそんなにロマンチストだとは思わなかったな。前世から決まっていたと?」 「そうです」 「……の割に、恋仲になるまでに少々時間がかかったようだけど?」 「それは彼女も何度も傷つく勇気が無かったからでしょう。真歩の方は傍目から見てもかなり素直に口説いていましたけど、それを受け入れるにはゆうは幼く、頑なだった。それだけです」 俺は目の前の少年をじっと見つめた。 元々大人びてる子だとは思ったが、ここまで冷静に見てるものか? 「真歩との事は、僕が背を押すのは簡単でしたが、面倒なので放って置きました。現にまとまりましたし、ゆうの気持ちをしっかりと真歩に向けるのに必要な時間が稼げたようなので、むしろ良かったかと。ゆうの方から想いを打ち明けたようですから、かの人との執着を断ち切るのには有効だったようです」 かの人……か。
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