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母親ってのは、こうやって世話を焼くんだろうか……?
女性の顔を見ながら、のんびり思った。
「もう大丈夫かな? 飲んでみて」
言われて俺は口をつける。
最適な温度だった、俺は一気に飲み干した。
女性が嬉しそうに微笑む。
脇にあったティーポットから、次の紅茶を注いでくれた。
俺は次のお菓子の箱に目が行っていた。
女性が気が付いて、蓋を開けてくれた。
いつの間に出て行っていたのだろう、おじさんがドアを開けて入ってきた。
「うちに案内してあげなさい」
穏やかに言った。
言葉の意味は、すぐに理解できた。
「え……っ!?」
「体は冷えているし、お腹もお菓子じゃ足りないだろう。お風呂に入って、ご飯も食べて。今晩は泊まるといい」
言葉に驚いた。
見ず知らずの、何処の誰とも判らない子供に、そこまでするか!?
「で、でも! おじさん達の事、知らないし……!」
「上山康生だよ。こちらは妻の絢子」
おじさんはにこやかに言った、女性は頭を少しだけ傾けて挨拶する。
「君の名前は?」
あまりに居心地が良すぎて、俺はポロリと言ってしまう。
「……太田、朋弘」
好きじゃない名前。
名もなく捨てられていたので施設の人間が付けてくれた。
苗字は当時の施設長ので、下は、言われも聞いてない。
「朋弘くん、か」
康生さんは嬉しそうに言った。
「ほら、これで知らない人じゃない。いろんなことはまた明日考えよう。今日はお腹いっぱい食べて、いっぱい寝なさい」
優しい声と言葉に、俺は頷いていた。
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