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あったかい炎が揺れている。 俺は膝を抱えてそれを見つめた。 木がはぜて、薪が崩れる。 炎は生きているみたいに揺れる。 なんか。落ち着く。 こういうセラピー、あったよな。 だからだ。だからこんなに居心地がいいんだ。 いいな。こういう家。 思ってしまって頭を振る。 勝手に上がり込んで、何言ってるんだ。 明日には、またあの施設に帰るんだ。 その日に連れ戻されなかっただけでも有り難いんだ。 でも。 ちょっとだけ。 ちょっとだけ。 家族ごっこをしたい。 こんな雨が降る寒い冬の日でも。 温かいお風呂と部屋がある、普通の家に帰るんだって言うおままごと。 ご飯を作る、お母さんは、絢子さん。 お父さんは、康生さん。 その時、ドアが開いて、「ただいま」と声がした。 少しして、廊下から康生さんが姿を見せた。 「ただいま」 微笑んで、俺に向かって言ってくれた。 こんな時の返事を、俺は一瞬忘れてしまった。 「……おか、えりなさい」 たどたどしく言うと、康生さんは嬉しそうに微笑んだ。 お風呂は?と聞く絢子さんの声が聞こえた。 先にご飯を、と答える康生さんの声もした。 顔が熱い。 きっと暖炉の炎のせいだ。
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