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その奇妙な店は、墓地のさらに奥にひっそりと佇んでいる。
……アンティークショップ、le souvenir(ル・スーヴニール)。
立地の悪さからか、この店を訪れる人間はほとんどない。
人間、は……。
チリンチリンチリン。
「いらっしゃいませー」
ドアベルが奏でる音に、笑顔で挨拶。
でも、入ってきた人影はどこにもない。
そんなことにはかまわずに、誰もいない空間に向かって私は話しかける。
「すみません、いま店長、出てるんですよ。
ご用件をお伺いしますので、こちらの受付表にご記入いただけますか?」
簡素な応接セットを手で示し、その上にボールペンとバインダーに挟んだ紙を置く。
そのまま私は奥のキッチンに行くと、お茶の準備を始めた。
今日はそろそろ時期になってきたし、林檎の香りの紅茶。
お客様はお茶を飲むことができないから、せめて香りだけでも楽しんでもらおうと、いくつもお茶を揃えてる。
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