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お茶を淹れて戻ると、誰もいないはずなのに、さらさらとペンが走る音が聞こえた。
紙の上をペンだけが動いてる。
でも、そんなことに悲鳴を上げたりしない。
そっとお茶を置いて声をかける。
「ゆっくりでかまいませんので」
カウンターに戻ると、ゆらゆらと紅茶から立ち上る湯気と、なにもない空間で動くペンを見ていた。
湯気が全く上がらなくなったころ、ぱたんとペンが倒れた。
「じゃあ、店長に云っておきます。
二、三日で戻ると思いますので、少々お待ちくださいね」
少しして、チリンチリンと再びドアベルの音が響く。
「ありがとうございましたー」
カウンターを出てバインダーを取りに行くと、用紙にはすべて、書き込んであった。
それを手にパソコンを開いてデータを打ち込んでいく。
できあがったデータは店長に転送、っと。
時計を見るとすでに八時になってた。
外はすっかり明るくなってる。
今日はもう、お客様は来ないだろう。
手早く片づけを済ませると、私はあくびを噛み殺しながら、家路についた。
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