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夜魅は柊平に、自分が座っていた木箱を持つように促す。
「今度はなんだ?」
刀ほど難色は示さないものの、明らかに警戒している。
「提灯と火種。」
菓子箱くらいのサイズの、古い木箱を尻尾ではたきながら夜魅は言った。
聞く限り危なそうではないと判断したのか、柊平はその箱を抱える。
「じゃあ、戻ろう。お客さんが来ちゃうよ。」
夜魅は満足そうに尻尾を立てて、北の建物を出た。
刀と提灯と火種?
夜魅の後ろを歩きながら、時代劇の小道具のような荷物を抱えて考える。
東の建物の廊下から、ガラス障子を通して見る中庭は特に変わったところはない。
映画なんかでは、こういうキーアイテム的な物を動かすと、劇的な変化が起こったりするが、現実はそんなにお手軽ではないらしい。
少しづつ提示される昔話や、押し付けられた約束も、イマイチ実感がわかない。
誰に行けと言われたわけではなく、本当に誰も行きたがらなかった。
父などは仕事で都合がつかなかったから柊平はここにいる。
ただ、撫で斬りのヒイラギを見た時、自分が今ここにいるのは、仕方なくだったはずだが、いわゆる目に見えない力のなせる技ではないのか、と思ったりしていた。
「柊平!早くー!」
東の建物を出た渡り廊下で夜魅が呼ぶ。
その姿に違和感を見て、柊平は思わず走り寄った。
「柊平、やる気出てきた?」
昔話以降、渋々と言った様子で自分に従っている感じだった柊平が、走り寄ってきたので夜魅は歓迎する。
が、柊平は夜魅の目の前に、持っていた荷物をガチャガチャと置いた。
「いたいっ!いたたたっ!」
「本物なのか。」
夜魅の前にしゃがみこんだ柊平は、夜魅の尻尾を引っぱって、ポツリと感想を言った。
さて、いつからだったのか。
夜魅の尻尾が二本に見える。
「だって、もういいだろ!普通の猫のフリしなくても!」
「それが元の姿なのか。」
「言ったろ。妖怪だって。」
柊平の手を振り払い、ムスッとして夜魅が言う。
本物の化け猫の昔語りとなると、全部がさらに真実味を帯びてくる。
柊平は、撫で斬りと木箱を持ち直し、気を引き締めて四畳半に戻った。
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