百鬼夜行路

12/14
前へ
/14ページ
次へ
「こんばんは。」 ちょうど、柊平と夜魅が四畳半に戻ってきたのと同時だった。 「お客さん、来ちゃったみたい。」 夜魅が店の戸まで歩いて行く。 「どちらへお通りですか?」 唄うように夜魅が言う。 「百鬼夜行路のその先まで。」 相手もまた、唄うように答えた。 柊平は、持っていた荷物を置くと、夜魅のそばまで行ってしゃがむ。 「開けてもいいか?」 「うん。お客さん。」 柊平は立ち上がると、鍵を開ける。 建て付けの悪くなった店の戸を、ガラガラと音を立てて開けた。 そこに人の姿はなく、紅い番傘をさした狐が一匹、ちょんと佇んでいた。 「いらっ…しゃいませ。」 柊平はなんとかそう言った。 「お世話になります。」 狐は器用にお辞儀をすると、夜魅に案内されて店の中へ入って行った。 しゃべる動物、流行っているんだろうか? 狐は番傘をさしたまま、店の奥の四畳半に座った。 柊平も座敷へ戻り、狐の向かいに夜魅と並んで座った。 「火はお持ちですか?」 「狐でございますからね。」 夜魅の問いかけにホホホと笑うと、手を打ち鳴らす。 すると、小さな青い火の玉が狐の手元に現れた。 これが有名な狐火か。 他人事のように感心していると、夜魅が脇からつつく。「柊平、提灯出して。」 柊平は、さっき撫で斬りと一緒に持ってきた木箱のふたをそっと開く。。 中には、古びた提灯と、ビー玉のようなものが幾つか入っていた。 「提灯を開いて、火を入れて貰って。」 提灯を持ち上げて開くと、狐はその中へ狐火を落とした。 「暗いですな。これで百鬼夜行路が歩けますか?」 狐が提灯を覗いて不安そうに言う。 「百鬼夜行路を行くには、百鬼の火種が必要です。」 夜魅はそう言うと、柊平にビー玉の方を提灯に入れるように促した。 ビー玉のようなそれを、提灯の中の狐火に落とす。 青い狐火は途端に色を変え、淡い虹色のような不思議な光を湛えて、四畳半に柔らかい影を作った。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加