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暇を持て余した柊平は、ここ数日、閑古鳥の鳴く店内をただ眺めて過ごしている。
広い土間のようなスペースに、屋根の重みを感じさせる太い木の柱。
すりガラスの窓から射し込む光は、さざ波のように静かに揺れ、徐々に暮れの色へと波長を変えていく。
棚に並べられた古い本や、年代物の道具類が、その光を浴びて寂しげな影を落とした。
”爺様が趣味でやってる骨董屋”
身内はそう言い、土地ぐらいしか価値がないと話しているのを病院の廊下で聞いた。
店自体は、柊平にもそう見える。
贔屓目に見ても、間口の狭いこの店は入りづらい。
骨董品目当てに来る客など、居るのかどうか。
ただ、祖父が暮らすこの店は、百鬼の母屋にあたる。
その観点からすれば、少し見方が変わってくる。
店からあがってすぐは四畳半の座敷と六畳間。
手洗いと台所もこの四畳半に隣接している。
そしてその奥には、苔むした中庭があった。
さらに、その中庭を囲むように、渡り廊下で繋いだ別棟が三棟もある。
むかーしむかし、百鬼のご先祖様は鬼退治をした事があるらしい。
この中庭より向こうは、たぶん、”土地ぐらいしか価値がない”で片付く場所では無いように思う。
その何となくの勘から、柊平は奥の建物には行ったことがなかった。
せいぜい四畳半の縁側から、中庭越しに眺めるくらいである。
土間に落ちる影が溶け、明かりが必要になってきた頃、柊平は立ち上がった。
そろそろ閉店の時間だ。
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