百鬼夜行路

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夕飯を届けてくれたのは父だった。 コンビニで済ますと電話で言ったが、母は譲らなかった。 「ありがとう。母さんは?」 「心配していたよ。」 父が差し出す重箱をみて、柊平は納得する。 1人で食べられないほどの量が、母の懸念を思わせた。 「夜魅、柊平じゃないと駄目なのか?」 「それはボクが決めたことじゃない。」 夜魅は四畳半に座って、入口で話す2人を見ている。 「わたしも残ろうか?」 「京介は帰っていいよ。」 夜魅は金色の目を細めて、素っ気なく柊平の父に言った。 「柊平。」 柊平より背の高い父が、肩に手をおき語りかけるように言う。 「お前の名前は、魔除けになるよう選んだ名前だ。」 「魔除け?」 「そうだ。覚えておいてくれ。」 「わかった。」 急に何の話だろうかと思ったが、父の真剣な表情に黙ってうなづいた。 「じゃあ、気を付けて。」 「大袈裟だな。そんなに子どもじゃないから。」 あまりの心配しように、少しムッとして柊平は言う。 祖父の家で、1晩留守番するだけである。 父は曖昧な笑みを見せたが、それ以上は何も言わずに帰って行った。 「夜魅、父さんがいた方が良かったんじゃないか?」 「何。ホームシック?」 夜魅はからかうように言う。 「そうじゃなくて。」 柊平はため息をつきながら、四畳半のちゃぶ台の上に重箱を広げた。 「父さんなら、その常連さんを知ってるんじゃないかと思ってな。」 「さぁね。それより、早く食べなよ。食べ終わったら、準備するんだから。」 「準備?」 「そう、準備。ほら、早く。」 夜魅にせっつかれ、柊平は訝りながらも好物が詰め込まれたお重に箸をつけた。
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