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「みんなが姿を見えるようになっても、しゃべらなかったのは何でだ?」
「柊平にボクが見えていることに気づいた壮大朗と京介が、ボクに普通の猫のフリをするように言ってきたのさ。」
「お前がいつ普通の猫だったんだ。」
柊平にとって夜魅は、物心ついた頃にはもう父の実家にいた飼い猫だ。
そして最初からずっと喋る猫だ。
「よく2人に怒られたよ。でも、話し相手は多い方が楽しいからさ。」
夜魅はピンと立てた尻尾を少し振る。
「お前は性格悪いよな。」
ダメと言われたらやりたくなるタイプだと、柊平はよく知っていた。
「猫と話す柊平を、壮大朗と京介は周りに見せたくなかった。それが普通と違うことを、幼い子供は知らないからね。」
言いながら、夜魅は北の建物に入る。
その建物には、他の三棟のように縁側や廊下はなく、一つの大きな和室だった。
「ここはあんまり入りたくないんだけど。」
引き戸の前で、柊平は立ち止まる。
「ほら。それ。柊平はそれで、今まで避けてきた。ホントは妖怪も鬼もそこかしこにいる。でもそうやって、そういう場所を避けて来たから、見たことがない。」
勘がいい。
夜魅が言ったのはこういう意味だ。
「じゃあ、ここには何か居るのか。」
つまり、自分が入りたくないこの場所には、何かいることになる。
「残念。ここはちょっと違う理由だと思うよ。」
夜魅は奥へ進もうとするが、柊平は入ってこない。
止むおえず、夜魅は柊平の足元まで戻った。
「京介が言ってたよね。柊平の名前は魔除けだって。」
尻込みする少年を夜魅は見上げる。
自称妖怪が何を言うのか、と柊平は思う。
お前が妖怪なら、除けられていないじゃないか。
「悪いものは、柊平に触れない。」
だから安全だと?
妖怪というのは、こうやって人をたぶらかすのだろうか?
動かない柊平に、夜魅はため息をつく。
「そんなに怖いの?」
さっきの宥めるような喋り方とは一変、小馬鹿にした様に目をすがめる。
「別に怖いわけじゃない。」
ムッとしたように柊平が言う。
負けず嫌い。
壮大朗と京介の若い頃によく似ているな、と夜魅は密かに笑う。
再び北の建物に入っていく夜魅に、柊平はついて入った。
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