百鬼夜行路

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なんだろう? 北の建物は、妙な雰囲気だった。 今通ってきた建物も、独特の違和感があったが、ここはそれがさらに強い。 さっきの建物と違い、広い割には、物が少ない。 「呆けてないで、あの刀持って。」 建物の中心あたりから夜魅が呼ぶ。 「刀?」 夜魅に近づくと、ちょうど建物の真ん中あたり、に1振りの日本刀が置かれていた。 上に向けて置かれた刃が、暗い電気の光を受けて鈍く光る。 「鞘はこれ。手、切らないでよ。」 その側に立て掛けられた刀の鞘を、夜魅が前足で転がして寄越す。 紅い組紐がまかれた鞘だ。 「なんで日本刀なんか…。」 夜魅は刀から少し離れた木箱の上に移動する。 「その刀は『 撫で斬り』って呼ばれてる。文字通り、触れたものを撫でただけで真っ二つにしてしまうほどの切れ味って由来。」 「それだけか?」 この建物が他と違う理由は、たぶんこの刀だ。 「その刀、持ち主を選ぶとも言われてる。はばきの所を見て。」 「はばき?」 「刀身と束の間にある金具の所。」 そんなことも知らないのかという様子で夜魅は言うが、一般男子高校生が、日本刀の部位の呼び方など知っているはずもない。 束はなんのことか分からなかったが、刀身は察しが付いた。 刀の柄と刃の間にある金具に、葉っぱのような彫り込みがある。 「ヒイラギ?」 ギザギザの葉っぱが2枚、彫り込まれているのが、薄暗い室内でもハッキリ目に入った。
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