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その奇妙な店は、
薄暗がりの中、何とも不気味な雰囲気を漂わせながら、ひっそりと建っていた。
見た所、古めかしい木造平屋の建物で、何とか読める『幸福堂』と書かれた、やはり木製の古ぼけた感じの大きな看板がその店のガラス戸の上に、でんと掲げられてある。
店内からは淡い照明の光が漏れ、辺りをぼんやりと照らしていた。
「…う~む…。
確か、こんな店って、最近までここに無かったはずだよな…」
俺は、首を傾げた。
そうなのだ。
ここは、過去に何度か通っている道なのだが、こんな店を見たのは初めて…。
もし、以前から有ったとしたら気付かない訳がない。
…と、いう事は…
最近、建てられたものか?
いや、建ったばかりの店の割りにはあちこち朽ち果てていて、それなりに『年季が入った』建物に見える。
もしかしたら…
古めかしい雰囲気を出すためにわざとそれっぽく演出された建物なのであろうか…。
『幸福堂』と書かれた看板を掲げている所から見て、何かを売ってる店なんだろう。
逆にこの看板が無ければ、古い物置か倉庫ぐらいにしか見えない。
周りは…
本当に何も無い、
ススキが一面に生い茂る原っぱ。
いや、『何も無い』というのは正確な表現じゃないな…。
確かに辺りは、ススキの原っぱだが…
その一部分が切り取られた様な形で…
小さな墓地も有る…。
現に今も、その奇妙な店が建っている背後には、
不気味な雰囲気の墓石が何体か見えている。
とても、何かの店が建つようなロケーションとは、思えない。
それに加えて…
すっかり辺りは、暗くなっていた。
「よくこんな不気味な道を通れるものだね…」と、思うかもしれないな。
もちろん、俺だって内心は怖いのだが…幼なじみのユウタロウの所に行くには、どうしたってこの道を通らなければならないのだ。
多分、今頃、ユウタロウも俺と会うのを首を長くして待ってくれている事だろう。
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