第1章

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羽田周辺は雨が降っていたせいもあり、肌寒かったけれど、こちらは快晴。 十月に入ったというのに、長袖じゃ暑い。 空港の外に出ると、ロータリーの向こうに巨大広告看板の数々が見えて、福岡に帰ってきたのだと実感した。 帰ってきたというのは正確にいえばおかしいかもしれない。生まれ育った街は違うから。 しかし、想い出深い大学時代を過ごしたここは第二の故郷(ふるさと)といって然るべき街だから。 ただいま。 卒業後、東京で十年働いた。 ウチは元々東日本を中心に会社があり、来年から福岡支社が誕生する。 そして、その重要な戦力として福岡に馴染みのあった俺に白羽の矢が立ったという訳だ。 母校は福岡市内にある私立のマンモス校。 サークルやバイト、そして、幾つかの恋。学生の本分である勉強は少し。 典型的なモラトリアムを謳歌する学生だった。 当時住んでいたアパート近くに居を構えた。 そこに決めたのは、住んでいた地域がいわゆる学生街で暮らしやすかったため。 いや、それは建前だ。 本音を言えば、恋しかったんだ。
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