第1章

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店に入ってすぐの二人掛けのテーブルは空いていた。 初めて訪れた時そこしか空いてなくて、だけどそれ以来そこが指定席になった。 あの頃は五十代の夫婦が二人で切り盛りしていて、何度か通ううちに俺たちのことを覚えてくれていた。 おじさんは愛想がなく、おばさんは正反対。 客がお父さん・お母さんなんて親しみを込めて呼んでいた。勿論、俺たちも。 指定席に荷物を置いて食券を購入。 「チャーシューメン普通盛りと餃子ですね。ありがとうございます!」 女性に軽く会釈をしてお冷グラスを持って席に着く。 彼女はこの店のラーメンを頼んだことがなかった。 とんこつが苦手だったから。 地元の人間はとんこつが好きだとばかり思っていて、あの日つれてきた。 随分後になって苦手だと申し訳なさそうに教えてくれた。 でも、俺たちはその後もここに通い、彼女はラーメン以外を頼むのが常だったし、嫌々来ていた訳じゃないと思う。 だけど、本当は付き合ってくれていただけなのかもしれない。 それも今となってはわからない。
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