第1章

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「チャーシューと餃子、お待たせしましたっ」 スマホをいじっていると、女性が注文した品を持って来てくれた。 「どもっ」 小さく頭を下げると、彼女は本当に人の良さそうな笑顔で会釈してくれる。 お母さんもこんな感じだったな。 もしかすると、どちらかがあの夫婦の子供さんかもしれないな。 テーブルに置かれたそれらは、見た目はあの頃と変わらない。 箸立てから割り箸を一膳とり、パチンと左右にひっぱるときれいに割れた。 初めて二人で訪れた時、俺も彼女も割り箸がきれいに割れなくて笑い合ったっけな。 ラーメンからは湯気が立ち上っている。 トッピングのチャーシューの多さや汁の色味、香りもあの当時の記憶と同じだ。 餃子もいい焼き加減。 作る人間は違うけれど、この店の魂というのは大袈裟かもしれないけれど、そういうものをちゃんと引き継いでいることが嬉しい。 「頂きます」 顔の前で手を合わせ、小さく呟く。 彼女が「頂きます」や「御馳走様」をきちんと言うコで気持ち良かった。
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