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・・・・・・・彼女を、質に、
頭を働かせ、記憶を振り返る。
枷がついたかのように思考が上手く働かない、しかしそうもいかない。
強引に枷を剥がし意識を記憶の海へと投げ打つ。混濁した追憶の奔流の中で、望んだ過去を見つけ出す。
そう言えば、そうだった、、と
僕はその場に泣き崩れた。
◇
1億円
これが彼女を売った時に貰った金額だそうだ。
おそらく、人間一人を売り払った時の値段とは大きくかけ離れているだろう。
1億円、なぜ欲しがったのかも、何に使い切ったかもよく覚えていない。
そんな自分の記憶力と精神に嫌気がさす。
まだ咲いていない桜並木の下を、フラフラとしたおぼつかない足取りで進んでいく。
不意に空を見上げると、周りは真っ暗だというのに星一つ見る事の叶わないドス黒い夜空だった。
本能的に。だろうか、
僕はその光景に押し潰されそうな威圧感と恐怖を感じた。
急かすような紅葉とは違った、胸を抉るような感覚。
その内には、この世の全てが恐ろしく思うのではないかと思い、恐ろしく思った。
暫く歩いていると、見慣れた繁華街に出た。
今は全てを忘れてしまいたいと思った。
今日は、この場所で何に金を注ぎ込もうか?
彼女はもういない、女遊びなんてどうだろうか。
自分の思考が常軌を逸していく感覚が脳をザクザクと刺激する。
しかし、もう遅い。
今はあらゆる苦痛から逃れてしまいたい。
繁華街を歩く。
いい店はないかと目を凝らす。
金ならある。
60万円、生活費ならともかく、この繁華街で遊びに使えば一瞬で消えて無くなってしまう金額だ。
ならまた稼げばいい。
今度は何を売ろうか。
まるで何かに洗脳されたかの様に、僕が『店』の存在に縋った。
間違いなく諸悪の根源であるであろう『店』を求めてしまう。
きっと先輩は、この洗脳を解いて欲しくて僕をあの店に紹介したのだろう。
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