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ブルル
ブルル
鈍い振動音が密室に響く。発信源を探すと、どうやら俺の携帯から鳴っているらしい。
そういえば、彼女の直美としばらく連絡が取れていない事を思い出し、机の上の携帯に手をかける、画面を開くと、そこに映っていたのは直美の名前ではなく、知らない番号だった。
「またか、」
これで3日目、1日に必ずかかってくるのだ。
興味もなく、不快だったので応答していなかったがそれは今日も変わらない。電話を切り、ジャージのポケットに入れた。
準備が整ったので、扉を開けて、外に出る事にする。
一瞬の躊躇いがあったが、僕は『店』に向かうため、外に出たのだった。
◇
石造りの道を踏みしめて歩く。ここまで来るのに、辺りは既に陽が落ち、暗くなっていた。
丁度良い時間帯である。
『店』は夜にしか開かず、逆に陽が落ちている間はずっと営業しているらしい。
両端に並木を携えた一本道を進むに連れあたりがより一層暗くなっているのを感じる。
夜が深まっているわけではない。
道に備え付けられた蛍光灯の間隔が段々と広くなっているのだ。
歩けば歩く程、闇に誘われる様な感覚はいつになっても慣れるものでは無い。
蛍光灯が完全に周辺から無くなり、月明かりのみが足を照らし出した頃、ようやっと『店』が見えてきた。
『店』は、石造りの一本道の突き当たりに堂々と建っている。
古びた家が建ち並んでいた道の終わりに相応しい、日本庭園の様な佇まいの屋敷だ。
営業時間にも関わらず、いや、そもそも人が住んでいる筈なのに、その屋敷『店』には、灯りが一切灯っていなかった。
『店』の木造の門の前に立つ。
すると、まるで僕が来るのを理解していたかのように甲高い摩擦音を立てて門が開く。
開いた門から、ぬるりと一人の男が出てきた。
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