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男は、中肉中背、髪は剃った坊主頭、据わった目に大きなクマ、無駄に生やした無精髭が特徴的な男だった。
「今の」僕にそっくりだ。
当然、顔も骨格も違うので別人である。
「いらっしゃいませ。来る、、、と思って、、いましたよ。 どうぞ」
ゆっくりと男が掠れた声でそう言うとこちらを手招きしてきた。
「中に入れ」という事だ。
いつも通り素直に従い、『店』に入る。
大きな前門をくぐると立派な庭園が目に映った。
それと同時に、今まで真っ暗だった屋敷内が、まるで僕を歓迎するかの様に鈍い灯りで満たされていったのだった。
◇
『店』の屋敷の廊下を鈍い置き提灯の明かりを頼りに男とともにしばらく歩き、とある一室にたどり着く。
僕と男は向かい合い、胡座をかいて畳の上に腰を落とした。
「本日は、、、どのようなご用件で、、?」
男は掠れた声で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
据わった目はこちらをじっと見つめているようだったが、しかしこちらを見ていないような気もした。
不気味な男だが、何度も訪れている内に、その奇怪な人柄にも慣れが来るようになっていた。
最近では、紅葉に急かされる六畳間の部屋の中よりも、この『店』の方がずっと落ち着くのだ。
「今日は、いつもの通り取引の相談を」
俺が男にそう言うと、男は『俺の方をじっと見ているように見える目』を細める。
「取引、、、ですね、、、はいはい、、そうですね、取引ですね。そうですか。やはりそうですよね。というよりそれしかないですよね。もちろんわかっていましたよ。はいそうですね。あははは。」
最初は、いつもの掠れたか細い声だった。しかし『取引をする』ということを理解すると、次第に巻くように口調が早くなっていく。終いには、突然笑い出すものだから、さすがの僕も驚いて肩を震わせてしまう。
しかし、僕のやることは変わらない。
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