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◇
「お前、大丈夫か?」
「、、、、」
「すまねえ、俺のせいだ!」
「、、、、」
「俺が、あそこをお前に紹介しちまったから」
「、、、、」
「あの時は、早くあの『店』との縁を切りたくて、それで!!」
「、、、、」
「お前をあの男に売ったんだ。」
「、、、、」
「お前を客に引き込むなら、俺を開放してやるって言われて、」
「、、、、」
「、、、すまねえ、、、すまねえ、、、すまねえ」
「、、、、」
何故、彼は謝っているのだろうか。
僕は、先輩に『店』を紹介してもらったから今日までバイトもせず、楽に生きてこれたのだ。
「、、そう言えば、彼女さんは元気ですか?」
「、、、、!!」
何に謝っているのか理解出来なかったので先輩の謝罪をスルーして、話題を変える。
ここでの「彼女さん」とは僕の彼女ではない。
先輩の恋人のことである。
僕の世間話に心底驚いたように先輩は顔を見開き、歯切れの悪い口調で返答した。
「なん、、で、、!それを、、、!」
「、、、先輩?」
「、、、、もう会ってねえよ」
どうやら先輩の恋愛事情は僕と似通っているらしい。
「、、、なんか変なこと聞いてすみません。もう行きますね」
軽く頭を下げてその場を後にする。
「、、、すまねえ」
通り過ぎる時、最期にそう小さく呟いた先輩の声が、ひどく頭に残ってしまった。
ふと、考える。
僕は本当に金のためだけに『店』に通い続けているのだろうか。
もっとそれ以外の何か別の異常な理由があるのでは無いかと
思案に耽る
するといつの間にか木々が立ち並ぶ『店』へと続く一本道に差し掛かった。
そう言えば、初めて『店』に来た時は夜桜が咲いていて、この一本道を妖艶に飾り立てていたことを思い出す。
桜並木の下で僕は闇に誘われる。
『店』の屋敷の前に着くと、やはり巨大な木製の門が僕を出迎えると甲高い摩擦音が鳴ると同時に、闇で埋め尽くされた屋敷が鈍い灯で満たされた。
「、、、いら、、しゃい、、ま、せ」
◇
「、、爪を、、、持って来られたの、、ですね?」
「はい。」
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