鬼のごはん

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その人間はというと、腕を支えに上半身を起こし、キジの丸焼きを直視していた。 顔色はまたもや血の気が抜けたように白くなり、焦点が定まっていなかった。口元も震えている。 と、人間観察をしていると、母上が父上を連れて戻ってきた。 母上は怯える人間をまた跨ぎ、ぼくの右横に座る。ぼくは母上の目の前に米が盛られた葉を置いた。 父上もぼくの横に座るのかと思いきや、壁際で縮こまった人間を担いで再び外へ歩き出した。 人間は父上の右腕の中で暴れながら、「食事を用意したら助けてくれるんじゃなかったのか!?」とか「次はおばあちゃん直伝のきびだんごを作るから助けてくれ!」とか言っている。 母上が先に食べていい、というのでぼくは早速白く温かい米に手をつけることにした。 ではまずは一口。 ぼくは葉に盛られた米を一握り分とると、口に流し込んだ。 炊いて出来た米は初めてだから、よく噛んで食べることにした。 口の中に入り、まず最初に感じたのは米の柔らかさだった。 ぼくがいつも食べている何の変哲もない米とは食感がやはり全然違った。 餡が入ったのかと思った。 次に匂いだ。 匂い、という表現は幼いながらも間が抜けていると思った。匂いではなく、香りとでも言っておこうか。 米を炊くことで口の中で広がる香りが、いつもの数十倍濃厚に感じる。鼻を通ると食欲が数十倍に膨れ上がる。 そしてそのまま噛みしめる。 やはり米とは思えないほどの柔らかさだ。本当に食べているのかさえ不安になる。 ここでぼくは発見した。 噛めば噛むほど甘くなっている。 小石のような食感ですぐ飲み込めるいつも米とは味まで変わるのか。 おいしー! と心の底からの感想を言うと、母上がぼくの頭を撫で、今日は行儀が良いわね、と言ってくれた。 ぼくは嬉しくなりもう一口、今度はキジの丸焼きも食べながら米を食べる。 炊いていない米を食べているときは思わなかったが、米と肉はよく合うようで、手が止まる気配はしなかった。 外から悲痛の叫びが聞こえた。 先程の人間のものだ。 断末魔の叫び、というのかな? ぼくはその叫びを耳づつみ、思うのだった。 早く父上も来て、家族一緒にごはんを食べましょう!鬼のごはんは家族団欒が一番だからね! と。
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