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「つまり、俺の万引き動画に匹敵するアイツの弱みになる動画を用意して、等価交換で消してもらうって事ですか?
それだとその…アイツの怒りを今より買いかねないんですけど…」
「うーん…もう少し汚いかな。
…その動画を使って、そのリーダーの子に悪意が向くようにしようと思う」
「…! 金森を、いじめの対象にするよう動くってことですか…!?」
俺の意図を察した冲嗣くんは目を丸くして、また少し大きな声を出した。
「…じ、じつは、知り合いにね、本田く…お、冲嗣くんと同じ学校にいる子がいてさ。
その子に協力してもらおうと思ってるんだ。
誰かはその、言えないんだけど…
冲嗣くんにやってもらいたいのは、一つだけなんだ」
クロの事だ。
通ってるわけじゃない、猫なら散歩の一つや二つはするし、
そのルートに学校が含まれててもなんら不思議じゃないはずだ。
「檜和田さんって、意外と攻撃的な事考えるんですね。
…まあ。そこでそんな事しちゃダメですよと言えるほど俺の心も綺麗じゃないので、いいんですけど。
で、俺は何をすればいいんですか?」
暗に責められてしまったかと思いきや、
そうではなさそうで安心した。
もっと色々突っ込まれる覚悟をしていたけれど、彼の受け入れの早さに救われた。
「たくさんの人間の悪意が彼に向いた時、その人…えっと、金森さん?に、声をかけてあげて欲しいんだ」
「なるほど。恩を売ると。
でも確かに金森にさえ目をつけられなくなれば、いちいち他のクラスメートで突っ込んで来るような人はいないですね」
思っていた以上にあっさりと納得されてしまって、今度は俺が驚く番になってしまった。
金森さんという少年以外は金森さんの取り巻き、または見て見ぬふりの人達が多いのは昼に学校での様子を見ていて気がついた。
けれど冲嗣くんの中の俺は勿論学校にはおらず、仕事をしているわけだからどう隠して話そうか考えていたのに杞憂だったようだ。
知らない体で話しているので‘たくさんの人’と表現しているが、
この機会にと悪意を向けそうなグループについても目星はついていた。
人間は争いを好まないけど、出る杭を打つ為の機会は虎視眈々と狙ってる。
その狡猾さを、俺はよく知ってる。
「どんなのを撮って、いつ頃やるんですか?」
冲嗣くんは表情を崩すことはないけれど、
いつも以上に食い気味で、言葉が強く早口だ。
大人っぽく冷静な振る舞いをしようとしてるのかもしれないけれど、形容しがたい感情と戦っているのは隠せていない。
「今日、これから帰ってから決めておくよ。協力してくれる知り合いと、話もしないといけないから。
また明日仕事が終わったら、公園で待ってるね」
「……そうですね。分かりました。また明日」
やっぱり隠しきれていない冲嗣くんの落胆の声に、罪悪感が芽生える。
それでもぺこりと、お互いに会釈を交わし十字路で別れた。
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