第3話 一人目~冲嗣~

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日も沈み、俺も実態を取り戻し、 ふと時計を見ると19時近く。 俺はまだ、学校にいた。 「…大丈夫?」 心ない彼らの悪戯で、冲嗣くんが倉庫に閉じ込められていたのだ。 「!  なんで、ここに…」 俺が迎えに来ると、彼は目を丸くした。 「こ、公園で待ってたんだけど、来なかったから…。 遅刻するような人じゃないし、俺も、学生の時閉じ込められてたから、もしかしたらって思って。 そ、それで、が、学校は、その…せ、制服から……」 この時間まで必死に考えて、砂に書いて音読した言い訳ですらどもる自分の姿がみっともない。 練習ではすらすら言えてたのに、 目を赤く腫らした彼を見た瞬間嘘をつく事に激しい罪悪感に苛まれてしまった。 「わざわざ…助けに来て、くれたんですか」 「え、…と…ご、ごめん…気持ち悪かった、かな…?」 「なんでそうなるんですか。」 涙ぐんだ声に詰められると、またいたたまれない気持ちになる。 反射的に慌てて謝ると、彼は笑った。 小声で聞こえたありがとうの言葉に、今度は俺が泣きそうになった。 ーーーーーーーーーーーーー ーーーーーーーーーー ーーーーーーー 髪を隠すために深めにパーカーのフードをかぶって、 目を見られないために下を向いて歩く。 そんな不審者全開の俺の隣を歩く冲嗣くんは、あんな目にあった後だと言うのに どうしてか昨日よりも顔色が良かった。 「仕事、いつも何時に終わるんですか」 今日こそ俺から話を切り出そう。 そう思って心の中で三秒数えていたら、また彼に話を振ってもらってしまった。 「あ、えっと、18時だよ」 「じゃあ仕事終わって、即公園来てたんですね」 そこでまた沈黙。 冲嗣くんと同じようなことをされた記憶はある。 誰かが支えてくれた記憶もあった。 だけど、それが誰なのか、どう支えてもらったのか、それすら思い出せなかった。 だから俺はもう、今日の本題に入ることを決めた。 「本田くんが撮られた動画、消してもらうように動こうと思う」 「…え!?」 やってしまった。 またなんの前触れもなく言ってしまった。 冷静な彼が大きな声を上げる。 俺の脈絡のなさが原因なのに、情けなくもその大声に激しい恐怖を覚えてしまい体が震えた。 「すみません、驚きすぎて、つい…でも、どうやって?」 「いいんだ、俺こそ、いきなりごめん。 …目には目を、って、言えばいいのかな。 優しい方法じゃないけど、主犯格の子にとってばら撒かれたくない動画を撮ろうと思う」 人間、変わりなさいと言われて簡単に変われる生き物じゃない。 まして悪魔に憑かれているなら尚更だ。 まずはあのいじめの主犯格と思わしき少年と同等になる必要がある。 人間のおこす汚い問題に、綺麗な方法で解決なんて滅多に出来やしないと思ってる俺には これくらいしか思いつかなかった。
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