弐 河原

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 振り向きざまに放たれた若者の横薙ぎが  男の肋骨を重く圧(お)し撫でた  だが、その刀筋はほんの僅かに大振りで  殺意が乗り過ぎている  白刃から伝播する動揺  焦りをさらに重ねて疾る  止(とど)めの一閃  だが、その時点で既に下策    沈み込んだ姿勢から  こちらが放つは二閃  空を這う蛇の如く  一の太刀が、こめかみをするりと抉(えぐ)り  返す二の太刀で、滑らかに喉を舐めた  やがて、蝉の音が戻ってくる  ふと、我に返って見下ろせば  己の脇腹に長く走る刀筋  河原の砂上に咲く朱い飛沫  滴る液体が  熱い痛みへと転じる頃  背後で何かが倒れる音がした
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