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参 神域
砂利を静かに踏む気配に、微睡(まどろみ)から覚醒する。汗に粘つく目蓋をこじ開ければ、西の空に陽はもうなかった。
半刻程、意識を手離していたらしい。待ち人は既に参道を上り終えて、薄闇包む境内に有る。
女の姿を最後に見た時から、悠に二年が経っていた。
端整な細面は長旅の所為か陰を帯び、その眼差しにもかつての黒曜石の煌(きら)めきはない。仇討ちを見届ける介添人(かいぞえにん)として、弟に同行する寂寞(せきばく)の日々。年頃の武家の娘だというのに、その身を包む質素な旅装には綻(ほころ)びが見える。
それでも、薄闇の中に背筋を凛と伸ばす女の佇まいは麗しかった。一文字に引き結ばれた唇には紅が引かれ、記憶よりもなお艶やかな丹花(たんか)に咲いている。
その様相はともすれば、郷里への道程でふと見掛けた神社に立ち寄る参拝客、と見えなくもない。
だが。
細い手にゆるりと握られた差料(さしりょう)が、まごう事なき異彩を放つ。先刻、参道口に自分が置き去りにした脇差だ。
夕立の名残だろう。小雨がいまなお、境内を煙らせている。女との距離は三間。此方にとっては遠く、相手にとっては余りにも近い。
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