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「来てくれたか」
「はい。おひさしゅうございます」
「其方(そなた)に一つだけ問いたい」
「何なりと」
久方振りに耳にする女の声は、涼やかな神域にあってなお澄んで響く。
「仇討ちの道中、弟に稽古を付けたのは其方か?」
「はい。二人旅でございましたゆえ、手慰(てなぐさみ)に」
「見違える程の練達振りであった」
女の視線が鋭さを増し、利き脚がそっと向きを変える。
「されば、何故(なにゆえ)、弟に討たれてやってくれなかったのです」
「済まぬ。拙者も討たれる心積りであったが」
「……が?」
「其方の姿を見て、つい、疾ってしまったのだ。この腕が」
境内に敷かれた玉砂利が、雑草の下で雨滴に謳(うた)う。視線を落とした女は一際濃い影を帯びて、彫像の如くただ佇んでいる。
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