参 神域

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「来てくれたか」 「はい。おひさしゅうございます」 「其方(そなた)に一つだけ問いたい」 「何なりと」  久方振りに耳にする女の声は、涼やかな神域にあってなお澄んで響く。 「仇討ちの道中、弟に稽古を付けたのは其方か?」 「はい。二人旅でございましたゆえ、手慰(てなぐさみ)に」 「見違える程の練達振りであった」  女の視線が鋭さを増し、利き脚がそっと向きを変える。 「されば、何故(なにゆえ)、弟に討たれてやってくれなかったのです」 「済まぬ。拙者も討たれる心積りであったが」 「……が?」 「其方の姿を見て、つい、疾ってしまったのだ。この腕が」  境内に敷かれた玉砂利が、雑草の下で雨滴に謳(うた)う。視線を落とした女は一際濃い影を帯びて、彫像の如くただ佇んでいる。
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