参 神域

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「……最早、私達も此れ迄ですね」 「何を申される。貴女は拙者を討って、晴れて郷里に戻られよ」 「いいえ、貴方様に此処で討たれて、私は果てます」 「ならぬ」 「いま、何と」 「それはならぬ、と申したのだ」  女の両腕がするりと伸びて。  胸の前に脇差を翳(かざ)すと、その刀身が薄闇に解き放たれた。俄に神域に迸(ほとばし)る、怜悧な情念。 「逃避行の果てに、よもや私との契(ちぎ)りまでお忘れになられたのですか」 「否。されど、拙者は其方に斬られねばならぬ」 「……父、弟に続いて貴方様まで失い、私にどう生きろと言うのです」 「重ねて詫びる。だが、この躰、長くはもたぬ。労咳(ろうがい)だ」  馴染みの家紋が刻まれた鞘が、からりと参道に転がった。抜き身の小太刀を無造作に下げた女から、昏い沈黙が垂れる。 「わかりました。貴方様の最後のお相手、私が務めましょう」
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