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幼少より道場に出入りしていた男は、業を深めるにつれて、居合を好むに至った。此方の間合いを読ませず、相手の刀筋を見切り、合を重ねさせないままに鋭利な一閃で終わらせる。
道場において、師の子息全員の動きを悉(ことごと)く見切ってなお、女がどこ迄の境地に至っているのか、男には探れなかった。そして、相見(あいまみ)えぬ二年の間に、女はその境地にさらに深く身を沈めていた。
男以外に唯一人、男以上の業を持って師を打倒し得る相手が、いま目前に迫っている。今生の最期に、この女(ひと)と仕合える。天の計らいと考えた。
三間の間合いなど、まるで無かったかの如く。読めないのが必定ならば、反応出来ないのも必然。小太刀の刃先が鼻先を掠め、自分が身を躱(かわ)していることに気付いた。
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