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早くも鼓動は千々に乱れ
四肢の至る箇所に朱筋が滲(にじ)んでいる
堪(たま)らず、雨中へと跳び疾る
濡れた石畳を嫌って跳び越え
草鞋の底に玉砂利を感じる
小太刀を逆手に持ち替え、迫る女
その艶やかなるを愛でる
かつて男は男である前に剣士であり
やはり女は剣士である前に女だった
だが、男は既にそれすら手離しつつある
そして、これ以上は
この躰が保(も)たぬことも知った
駆けながら刀身を鞘に収め
境内の樹を背に足を止めた
「見事です。父ですら、此処までの手数を捌(さば)けなかった」
「やはり其方か」
女の躰を見ず、影全体を捉える
額に落ちる雨滴を数えた
ひとつ
ふたつ
み……
右に低く沈んだはずの女の小太刀が
次の瞬間、掬(すく)い上げる様に手首を撫で
視界の隅に弾け飛ぶ男の左手
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