四 小太刀

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 早くも鼓動は千々に乱れ  四肢の至る箇所に朱筋が滲(にじ)んでいる  堪(たま)らず、雨中へと跳び疾る  濡れた石畳を嫌って跳び越え  草鞋の底に玉砂利を感じる  小太刀を逆手に持ち替え、迫る女  その艶やかなるを愛でる  かつて男は男である前に剣士であり  やはり女は剣士である前に女だった  だが、男は既にそれすら手離しつつある  そして、これ以上は  この躰が保(も)たぬことも知った  駆けながら刀身を鞘に収め  境内の樹を背に足を止めた 「見事です。父ですら、此処までの手数を捌(さば)けなかった」 「やはり其方か」  女の躰を見ず、影全体を捉える  額に落ちる雨滴を数えた  ひとつ  ふたつ  み……  右に低く沈んだはずの女の小太刀が  次の瞬間、掬(すく)い上げる様に手首を撫で  視界の隅に弾け飛ぶ男の左手
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