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此方の刀身はまだ鞘の中
身を翻(ひるが)えして樹の後ろへ
相手の死角で刀の柄に指を添えて
飛び出すと同時に一閃
切っ先に女の髪の感触
その刃の下を潜って
疾る小太刀の二閃
何処かを斬られたらしい
だが、利き腕だけはまだ生きている
一切の無音の中
左から吹く宵風を頬に感じて
それに重ねて走る線を垣間見た
此処にきて、ようやく届くか
否、ここしか通す線は残されていない
風に乗せて肘を振り抜くと
これ迄にない速さと鋭さで
追従する刀筋
刃先が僅かに逸れて
小太刀に触れたと知る
驚嘆に見開かれる女の目
何処か遠くで
二振りの刃が絡みながら地に落ちる音
厚い口唇(こうしん)に微かな笑みを浮かべ
眼前で女の上半身が翻(ひるがえ)った
懐(ふところ)に秘めた小刀が逆手に握られ
遠心力を乗せて男の肋骨の間を貫く
胸の内側に鮮やかな衝撃が拡がり
鎮守の森を覆う曇天が
男の視界の全てを占めた
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