四 小太刀

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 此方の刀身はまだ鞘の中  身を翻(ひるが)えして樹の後ろへ  相手の死角で刀の柄に指を添えて  飛び出すと同時に一閃  切っ先に女の髪の感触  その刃の下を潜って  疾る小太刀の二閃  何処かを斬られたらしい  だが、利き腕だけはまだ生きている  一切の無音の中  左から吹く宵風を頬に感じて  それに重ねて走る線を垣間見た  此処にきて、ようやく届くか  否、ここしか通す線は残されていない  風に乗せて肘を振り抜くと  これ迄にない速さと鋭さで  追従する刀筋  刃先が僅かに逸れて  小太刀に触れたと知る  驚嘆に見開かれる女の目  何処か遠くで  二振りの刃が絡みながら地に落ちる音  厚い口唇(こうしん)に微かな笑みを浮かべ  眼前で女の上半身が翻(ひるがえ)った  懐(ふところ)に秘めた小刀が逆手に握られ  遠心力を乗せて男の肋骨の間を貫く  胸の内側に鮮やかな衝撃が拡がり  鎮守の森を覆う曇天が  男の視界の全てを占めた
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