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脇差を今一度引き寄せ、参道口の杉に最後の目印を刻んだ。鞘に収めた脇差を木の根元に静かに横たえると、俄(にわか)に喉元へとせり上がる熱い塊。
参道の反対側へと蹴躓(けつまず)きながら駆け寄り、茂みに伏せて朱を吐き出す。夥(おびただ)しい量の液体が地面に滴り、ぞっとする程の力が四肢から喪われてゆく。
赤く明滅する視界。
されど、何時までも此処に留まる訳にはいかぬ。石段の上に躰を投げ出すと、雨滴の薄布に煙る小さな鳥居が視界に入った。細かな亀裂の走る表面に、微かに残る朱色の塗料。それすら駆逐し尽くそうと、苔が色濃く生(む)している。
腰の物を支えに、ゆらりと立ち上がる。頬は削げ落ち、生来の長身痩躯がより際立つ。いまの自分を誰かが見たら、山に巣食う幽鬼と見違えるやも知れぬ。震える膝を歯噛みして抑え込み、覚束ない足取りで、雑木に覆われた参道の中程まで這い上がった。
息苦しさに喘ぎながら視線を上げれば、破れた社殿がようやく見えてきた。
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