伍 夏祭

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伍 夏祭

「覚えていますか、あの夜の縁日を」  思いがけなく静かな問いに、眼差しで続きを促す。  いま、男は境内に仰向けに横たわり、その側に女が膝を突いている。 「貴方が私の手を引いて、お山のお宮に連れて行ってくださいました。でも、到着してすぐに、今日みたいな物凄い夕立に見舞われて」  穏やかな表情で、青黒い雨雲を仰ぎながら話す女。その様子に、かつての穏やかな日々が浮かぶ。「あぁ」と声を出そうとして、もう肺に息が残っていないことに気付いた。  女の視線が、再び此方へ降りてくる。  涙が一滴、頬を滑った。 「私、子供だったから。次々に店仕舞いしていく縁日の様がただ哀しくって。ぽろぽろ泣いてしまいました」  そこから先は、言わずとも分かっていた。夏の縁日。屋台、神楽、参拝客に賑わう境内。男が女と共有する記憶の中で、最も古いものの一つだ。
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