#5 最愛に気づく男

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忘れそうになるけれど優磨くんは城藤の御曹司。本当はもっと高級車にも乗れるし、自分で運転しなくたっていい。美麗さんだって専属の運転手がいたから免許を持っていないはず。 「このマンションもそうなんです」 「城藤の持ってるマンションなの?」 「はい、管理会社はうちの系列です。俺の親が慶太さんのために用意した部屋に住んでるんですよ」 「え?」 「姉が婚約破棄した慰謝料として一部屋を慶太さんに譲ったんですよ。家具も家電も揃えてね」 浅野さんの部屋を思い浮かべた。独身の一人暮らしにしてはかなり広い部屋だし、寝室のベッドはダブルサイズだった。ずっと不思議に思っていた答えが聞けた。 「慶太さんだけじゃなく、ご実家のパン屋の移転費用も出しました」 「そこまで……」 だからご家族は隣の県に引っ越したのか。優磨くんの実家の近くには住み続けられなかったのだろう。 「仕事も親の援助なんですよ」 「もしかして、うちの会社に転職してきたのは……」 「はい、城藤のコネです。でも入社してから慶太さんがしてきた仕事は実力でしょうけど」 あまりにも現実離れした話だ。慰謝料とはいえ城藤に何もかも支えられて浅野さんは生きている。 「だから慶太さんを苦しめているのは美紗さんだけじゃない。姉も親も俺だって、近くに居ることでずっと慶太さんを苦しめている」 それは家と呼べるこのマンションにいても安らげないだろう。だから仮眠室に泊まったり優磨くんのカフェに入り浸る。 大きな仕事をして評価されても、それは本当に自分の力なのだろうかと疑ってしまうかもしれない。 何もかも与えられたものに囲まれていては息が詰まりそうだ。 会社の人とどこか距離を置いていたのも馴染みたくなかったのだろうか。
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