#5 最愛に気づく男

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「ここに置いておきますね」 サイドテーブルに鍵と入館証を置いた。 「それじゃあ、お邪魔しました」 「仮眠室で……最初に来たのが君だと思ったんだ……」 部屋を出ていこうとする私を引き留めるように浅野さんは小さな声で言った。 「本当は今江さんだったのに、君がペットボトルを持ってきてくれたと思うなんて熱のせいだね……」 私はベッドの横に膝をついた。浅野さんの些細な一言も聞き漏らさないように。 「拒絶しても……君は何度も僕に会いに来る……」 「浅野さんが心配で……」 「それを期待しちゃうなんて僕も随分君に毒されたな……」 「どういう意味ですか?」 期待するとは、それを望んでくれたということだろうか。 浅野さんは目を閉じたまま何も言わない。 「仮眠室で今江さんを私だと思ってどうしたんですか?」 浅野さんは目を開けて私を見た。 「今江さんの様子がおかしかったので……」 ただ単に飲み物を持っていっただけとは思えない。今江さんは浅野さんに好意を持っていたのだから。 「別に。お礼を言っただけだよ」 「そうですか……」 今江さんが焦っていた理由は分からないままだ。 「私が来たとき、どう思いました? 嫌でしたか? それとも……」 今江さんを私だと勘違いしたほど、来るのを待っていてくれたと思ってもいいですか? 「…………」 浅野さんは尚も答えない。仕方がない。私は悪者なのだから。 「じゃあ……帰りますね……」 立ち上がりかけた私の手を浅野さんの垂れた腕がつかんだ。彼が握っていたスマートフォンが床に落ちた。 「本当は、君が来たと思ったら嬉しかった……」 「本心ですか?」 「じゃなかったら今江さんにあんなことしないよ」
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