#5 最愛に気づく男

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「あんなこと?」 浅野さんは私の手を強く引いた。とても弱っているとは思えないほどの力で。胸の上に倒れこむように私の上半身が覆い被さった。 「こんなことだよ」 浅野さんに体が密着する。着ている服の上からでも分かるほど体が熱い。 「本当にこんなことをしたんですか?」 「したよ」 浅野さんは私の腕を掴んだ反対の手で頭を撫でて髪をすいた。頭を少し上げて私の額にキスをした。 「こんなこともしたんですか?」 「そうだよ」 これではまるで付き合っていた頃と変わらない触れ合いだ。 「君の名前を呼んでも反応が薄いから、よく見たら今江さんだったんだ」 意識が朦朧とするとは恐ろしい。 「今江さんも抵抗しなかったからね……あの子も意外と大胆だよ」 「そんなの、抵抗しないに決まってます」 今江さんもその状況を狙って行ったのかもしれないのに。 「浅野さんからも私にこんなことをするんですね」 「…………」 「私の優しさが苦しいなんて言っておきながら、私が来るのを待っていたんですか?」 「消えないんだよ。君のことが頭から離れない」 荒い息と共に苦しそうに言葉を吐き出した。 「君を憎めたらどんなに良かったか……」 「憎まれて当然です……」 ほんの一時の間好かれたことだけでも奇跡だった。 「だめだった……どんな女の子と会っても、足立さんが頭に浮かんじゃう……」 「またセフレと会ってるんですか?」 「僕には軽い付き合いがお似合いなんだよ……」 「バカみたい」 私は浅野さんの胸の上で呟いた。 「浅野さんに本気で思いを寄せる子がいたら、自分とそんな付き合い方をされたら傷つきます。みんながみんな美麗さんのように軽い女だと思わないでください」 「…………」
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