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どうしたものかと逡巡していると、背後で物音がした。
振り返ると、数件隣りの民家の玄関扉が開き、小柄な老婆が金属製のバケツを片手に立っていた。私に視線を止めて、固まっている。
「Hola.(こんにちは)」
笑顔で挨拶の言葉を掛けながら、ゆっくりと近付いていく。
老婆の表情には明らかな警戒の色が浮かんでいて、いまにも家の中へ引っ込んでしまいそうだったからだ。
数メートルの距離を挟んで、両手を広げて敵意がないことを示しながら、少し大きめの声で話し掛ける。
ここへ来る途中、何台かの都市間移動バスと擦れ違った。この村もきっと、経由地の一つだろう。次のバスは何時に来るのか、知りたかった。
だが、老婆の不明瞭な発音は聴き取りにくく、どうも要領を得ない。
それもそのはず。
彼女はこの地方特有の言語、ガリシア語を話していた。
荒っぽい言い方をすると、ガリシア語とはスペイン語とポルトガル語を6対4で混ぜ合わせた様な言葉である。
歯切れ良く言葉を言い捨てる印象のスペイン語にポルトガル語の叙情的な響きがブレンドされて、音が耳に優しく、イントネーションも詩的で美しい。
ただ、初めて耳にする者にとっては、やはり多少の慣れを要する。
この時、早々に会話を切り上げようとする老婆から、苦労の末にようやく得られた情報は
「次のバスは明後日まで来ない」
というものだった。
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