vieja ― 老婆 ―

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 その後、民家の扉をいくつか叩いてみたが、住人達の反応は似たり寄ったりだった。  さて、どうしたものだろうな。  教会入口の石段に腰を下ろして、考え込む。  いや、今更、自分を偽っても仕方ない。  私は、考える振りをしている。  財布の中身はほとんど空だった。  旅の途中、レストランで皿洗いのバイトなんかをしながら食い繋いできたが。それもしばらく前から、やめた。  この村には、そんな風にして日銭を稼ぐ店もないだろう。むしろ私の行動は、都市部を徐々に離れてこういう場所を目指してきた、と言える。  無意識に、ではない。  つまり、旅の終わりが近い。  それを認識しながら、いまも他人事の様に自分を見ている。この乖離、この無責任が、躊躇いを凌駕して久しい。  バックパックを枕に身を横たえて、眼を閉じる。  冷えた石段が、あっという間に背中の体温を奪っていく。  潮風に乗せて、耳に届く波音。  生まれ育った街も、生活の基調音に波音がいつも横たわっていた。  こんな最果ての海ですら繋がっているのか、あの街に。  そう考えた途端、郷愁が思考を遮断した。  胸ポケットを探って、白地に真紅のツートンパッケージを取り出す。「Fortuna(幸運)」と言う名のスペインの紙巻煙草。  数週間前から妙な咳が止まらなくて、控えていた。だが、いままた、潮風に負けそうなライターを叱咤して残り少ない一本を燻らせる。  唇を離れる端から風にさらわれていく、白濁した吐息。  それを目で追うことすら放棄して、私は再び目蓋を降ろした。
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