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小柄な老人の背中は意外な素早さで、教会の裏手へと消えていく。そのまま墓地へ上る道を脇に逸れて、丘の裏へと回り込んでいった。
こちらは重い荷物を背負って、旅の疲れもあるというのに。配慮してくれる気配は全く感じられない。慣れた足取りの老人の後をフラフラと辿りながら、ようやく私も丘の裏側に至る。
にわかに開ける視界。下方から不意の強風に煽られて、思わず仰け反りそうになる。数羽のカモメが上昇気流を受けて、私のすぐ側をフワフワと漂っていた。
なだらかに下る斜面のずっと先、青黒い海に細く突き出した岬の突端。
そこに、小さな灯台が見えた。
遠目に見ても、さほどの高さはないとわかる。白色の石造りで、二階建ての住居が併設されていた。
灰褐色の階段が真っ直ぐ、岬まで伸びている。そして、他に建造物は見当たらない。つまり……
「あそこまで歩くならば少し休ませて欲しい」とは男の意地でどうしても言い出せない。
バックパックを背負い直して、歯を食いしばると、ひたすら老人の背を追った。
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