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寝袋から腕を伸ばして、バックパックのポケットから林檎を一つ取り出した。
ナイフで皮ごと削って、口に運ぶ。
強い酸味に顔をしかめるが、町の教会で話し掛けてきた中年の女性が恵んでくれたものだ。
彼女の人の良さそうな笑顔が思い出されて、口元が少し緩んだ。
寝袋をバックパックに縛りつけて、朝焼けの荒野に踏み出す。
数羽の鳥が、目の前の繁みから飛び立っていった。
白銀と濃紺に染め分けられた細身の躯体。菱形の尾翼がタキシードを連想させて優美だった。
この地方に入ってから見掛ける様になったが、何という名の鳥だろうか。
目を凝らすと、荒野の向こうへ消えていく大型トラックが見えた。
国道が近いことは、地図で確認してある。
ジャケットのジッパーを首元まで引き上げると、褐色に枯れた草むらを縫う細道をたどり始めた。
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