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「ねえ、マサト。さっきの女の子……見たろ? あっちに行ったよね。あの子」
春樹は自分に抱き付いて来たのがウサギだという奇妙な状況をすんなりスルーし、遠くを見る。
《女の子?》
「気になるんだ。……ね、ちょっとマサトも一緒に来てよ」
いきなり春樹に着ぐるみの腕を掴まれ、訳も分からず隆也は屋台でごった返す人混みの中を引っ張られながら歩いた。
丸い頭の通気口からは、焼きそばや、焼き鳥の匂いが流れ込んでくる。
空腹と謎のマサトが、隆也の頭を巡る。
「やっぱり、見つかんないな、あの子」
「なあ春樹、いったい誰、捜してんの?」
もうどうせドッキリは失敗だ。もういいや、と思いながら隆也は喋ってみた。
声がくぐもって、別人の声のように響いた。
「さっきの女の子だよ。マサト、見てなかった? 僕の前で躓いて転けそうになった子。かわいい女の子だった」
「気になるのか?」
「うん」
「いくつぐらい?」
「9歳か、10歳」
「春樹、おまえ、そんなちっちゃい子が趣味なのか?」
「いや、そうじゃなくて……。あ、ほら、あの子だ」
春樹は急に立ち止まり、小さなビジターの為の金魚すくいコーナーを指さした。
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