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そこには確かに小学校3~4年生くらいの少女がいた。
ストレートの髪を肩まで伸ばした色白の可愛らしいその子は、しゃがみ込んでニコニコと水槽の中の金魚たちを覗き込んでいる。
「あの子がどうかしたのか?」
「いや、さっき助け起こした時にね……」
「助け起こした時に?」
「……あ、……いや、いいんだ、ごめん」
なるほど、そう言うことかと、隆也はニンマリした。
「その時手が触れて、感情を読んじゃったのか? 春樹」
春樹はハッとしたように振り返った。
春樹にとっては、いきなり目の前の人物が、〈マサト〉から不気味なウサギに変わった瞬間だろう。
隆也はやっと満足した。ドッキリは大成功だ。
「気をつけないと、ロリコンだとか思われちまうぞ、春樹」
「……マサトじゃないのか?」
キョトンとする春樹の顔が楽しかった。
「誰だよそれ。この大学にはマサトっていうピンクのウサギが生息してるのか?」
隆也は、そろそろ許してやるかとばかりに、着ぐるみの大きな頭をスポンと外し、それを小脇に抱えた。
汗だくの顔が外気に触れてヒンヤリ気持ちいい。
「隆也!」
「いかにも隆也だ。……つーか、何で気付かないんだ? 大親友サマに」
「隆也……」
「うん。俺だって」
「ごめん、隆也。ちょっと、触らせてもらっていい?」
「は?」
良いも悪いも、そんな返事をする間も与えられず、隆也はすっかり汗ばんで火照った顔を、春樹のサラリとした両手の中に包み込まれた。
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