6人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
*****
いつからだろうか。
ふと気付くとその奇妙な店はそこにあった。
遠目に見ただけでは、何の店なのかさっぱり分からない。まるでわざと人を寄せ付けないような佇まいだ。
くたびれた看板にはこう書いてある。
『Black Dream』
直訳すると、黒い夢。
不気味さはあれども別段変わった店名と言う訳ではない。
ゴシック感のあるクラシカルなデザインの外観からは、お洒落な喫茶店という印象を持つ。
いつもの学校帰り、通りを挟んだ向こう側にあるその店を訝しく思いながら、羽村由衣は足早に通り過ぎようとしていた。
黒い夢か……
黒い……夢――
ぴたりと、由衣は突然歩みを止めた。
今日に限って、何故だかあの店が気になって仕方がない。
通学カバンを抱え込み、キョロキョロと車が来ない事を確かめると、通りの向こう側へダッシュで駆け込んだ。
(ああ、やっちゃった信号無視……)
真面目な優等生はそんな自責の念を抱いた。
そろそろと店の前に立ち、扉横のウインドウから中を覗こうとするが、薄暗くて殆ど何も見えない。
どうしよう。いっそ中に入ってみようか。
そう思いながらもなかなか行動に出る事が出来ず、暫く扉の前をウロウロとしていた。
チリンチリン――
「え?」
突然、店の扉がドアベルの音と共にゆっくりと開いた。
それはまるで、由衣の事を招き入れるかのように。
(何、これ。私まだドアノブに手をかけてもいなかったのに……自動ドアなのかしら?)
疑問を抱きながらも、由衣は恐る恐るその店の中へと足を踏み入れた。
最初のコメントを投稿しよう!