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薄暗い店内を見回すと、そこはやはり喫茶店のようだった。
そこそこの広さがあるにも関わらず、カウンター席が5つとテーブル席が1つだけ。
そのテーブル席にも、一対の椅子しか置かれていない。
「ようこそ、よくいらっしゃいました」
突然、落ち着いた若い男性の声がした。
思い切りビクリと身を震わせ、その声のする方へと顔を向ける。
その青年を見た瞬間、由衣は思わず「ほう」と息を洩らしてしまった。
すらりと華奢な体つきに端正な面持ち。
色白の肌に漆黒の髪と瞳とがよく映える。
清潔感のある真っ白なYシャツにはきっちりとネクタイが締められ、上下が黒のベストとスラックスといった出で立ちである。
「さあ、こちらへどうぞ。紅茶をお入れしましょう。お好きな銘柄はありますか?」
そう言って、青年はたった1つしかないテーブル席へと由衣を通してくれた。
なるほど。ここはあれだ、執事喫茶というやつだ。
「あの、私そういうのってあんまり詳しくなくて……」
「じゃあお任せでよろしいですね。少々お待ち頂けますか」
そう言って青年は一礼すると、そのまま流れるような動作で元居たカウンターへと立ち去った。
さらさらと茶葉を入れる音がする。
コポコポと熱湯が注がれ、蒸らし時間を計るための砂時計がコトリとポットの脇に置かれた。
優雅で無駄のないその動きに、由衣は無言になってただぼーっと見とれていた。
「お待たせ致しました。アールグレイティーでございます」
「アールグレイ……あ、ありがとうございます……」
何だか高級そうな名前なのが気になる。
こういうお店はメニューすら置いていないのが普通なのだろうか。値段も分からないなんて、正直不安でしかない。
紅茶を頂いたらすぐにおいとましようと、由衣は緊張しながら目の前に置かれたティーカップへと目を落とした。
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