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「よくいらっしゃいましたね。では、小瓶を拝見します」
青年は笑顔で由衣を迎え入れてくれた。
「はい。あの、これで良かったんでしょうか。私にはこれと言って何の変化も……」
「当然です。まだ対価をお支払いしていませんから」
「でも、例え私の記憶は消えても、アイツはまだ……」
「それも大丈夫。どうぞご安心下さい」
そう言って青年は小瓶の蓋を抜き、その中を覗き込んだ。
「ダークパープル……深い恐怖の色ですね。今からあなたは悪夢に関わる全ての事を忘れます。勿論、この店や私の事もね」
青年は由衣ににっこり微笑むと、小瓶の中の液体を一気に飲み干した。
「え、あの……!」
呆気に取られた由衣の瞳の中に、突然明るい陽の光が差し込んだ。
「あれ……私どうしてこんな所に突っ立ってるんだろう?」
そこは何の変哲もない、いつもの通学路。
ふと通りの向こう側にある寂れた店舗が目に入ったが、そのくたびれた看板には、特に何も書かれてはいなかった。
「ただの空き店舗じゃない。やだなぁ、何を気にしてるんだろ、私」
何だか不思議。
いつもより、心も身体も軽い。
由衣は鼻歌を歌いながら、軽やかな足取りで自分の家へ向かって歩き出した。
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