ナイトメア・ブラック

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 ***** 「何だあのガキ……急に開き直ったみたいに明るくなりやがって。さては誰かに話したのか?」  そんな事を呟きながら、由衣の後を付ける若い男の影があった。  帽子を目深に被りマスクを付けてはいるが、浅黒い肌の色や痩せ形で背が高いという、そんな特徴のある風貌は隠せないでいる。 「確かにさっきはこの建物に入って行った筈。どうやって出て来たんだ?」  男には、由衣が突然通りの向こうに現れた様に見えた。  店の前に立って、男は寂れた看板を仰ぎ見る。 「『Black Dream』……はて、何の店だ?」  チリンチリン――    突然、店の扉がドアベルの音と共にゆっくりと開いた。   「何だ、勝手に開きやがった。汚えくせに一丁前に自動ドアかよ」  そう言って男は店の中へとずかずか入って行った。  喫茶店と思しき店内をぐるりと見渡すと、身なりの整った若い男性が佇んでいる事に男はすぐ気が付いた。 「ようこそいらっしゃいました。あなたが阿久津高次(あくつこうじ)樣ですね。まさかそちらの方からお出ましになられるとは」  その店主と思しき青年は、男に向かって優雅に頭を下げる。 「ああ? 何で俺の偽名を知ってやがる!? あのガキやっぱり喋りやがったか!」 「それは違います。羽村様はあなたの事など一言も話されてはおりません」 「じゃあ何で俺の事を知ってやがるんだ!」  男は何の躊躇もなく内ポケットからバタフライナイフを取り出し、青年の喉元へと突き付けてきた。 「そうやって脅したのですね、自分の殺人現場を見てしまった彼女を。そして時期を見計らって彼女も殺そうと、あなたはそう思っていた」 「あのガキもあの時殺しておけば良かったんだがな。運悪く警官が通りかかっちまって、脅すだけで精一杯だったよ」 「おや。そこまでは聞いていないのに、よくベラベラと喋りますね」 「冥途の土産ってやつさ。どうせお前は今から死ぬんだ」 「これはこれは……予想以上です」  にやりと笑った青年の足下から、突如ぐんと真っ黒い影が伸び上がった。それはみるみる内に店内全体を覆い尽くしていく。 「な、なんだ! 一体何が起こって……」 「ククッ、あなたは他に類を見ないくらいの悪党というヤツですね。なんと旨そうな真っ黒い(はらわた)の持ち主なのでしょう。正直な所、こちらは空腹でもう限界だったのですよ」  思わず男は持っていたナイフを取り落として、後ろへと仰け反り倒れた。 「お、お前……っ、何なんだお前は!?」
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