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空気が不足していてひどく息苦しい。なのに酸素を求めるのとは全く逆に、貪るように唇を合わせる。遠慮がちだった舌先を捕まえ絡めると、ぎこちないながら求めるに応えてくれるのがわかる。
慣れない上にまだ緊張しているのが伝わって、胸が焦がれた。
「なんでこんなこと、するんだと思う?」
薫が言葉を発すると間近にささやかに息が触れた。『こんなこと』が指すのは、この先の行為だとすぐにわかる。
「生理的な衝動が嫌だって、事ですか?」
小さな欠片が胸に落ちる。キスの合間に、言葉を発するたびにぎりぎり唇が触れ合う距離のまま話を続ける。
「違う…反対。こうしてるだけでも、すごく気持ちいい。もっともっとって、もう何もかも全部、嫌になる程欲しくなる。気持ちの切実さが手に追えない。でも……」
「でも…?」
「気持ちがあって一緒にいられれば、それでいいはずなのに、どうしてこうしたくなるんだろう」
「好きな相手なら身体も求めて当然だって、薫さんが言ったんですよ」
「いつも、自分は何も知らなかったんだって、思うんだよ。想ってもその上があって、求めてもその上がある。少し、怖くなる…」
その言葉に胸が締め付けられるように、甘く遣る瀬ない気持ちで満たされる。
「机の上にいるから哲学的になるんです」
「純央がここで俺を離さなかったんだろ」
その言い方には突然幼い雰囲気が纏われていて、こうしてふたりでぴったりとくっついて囁き合っている幸せに心が漂い、笑みが漏れてしまう。
「こっちに来て」
腰を抱くようにしてデスクから薫を起こしベッドに横たえ、上から見下ろしながらまだ濡れている髪を撫でた。髪の間に覗く深い色の瞳は、こちらを見て逸らさない。いつもは涼しげな目元もしっとりと濡れているみたいに見える。
「僕たちってバランスがいいんでしょうね。どちらかが弱気になる時には、もうひとりが手を引くんです」
薫の腕を強く引き抱き寄せる。掴んだ腕はとくとくと脈打っていた。
「こっちが光」
切なく歪む眉を見逃さず、もう一度唇を捕らえる。絡む唾液が、甘い。さっきよりも欲を知った舌が互いに求め合い、呼吸の合間を短くしていく。口内を啜るとひたすら甘くて酔いそうになる。
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