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私は、母に言われるままに、
ケーキの上にのった四本の赤い蝋燭の火を吹き消した。
途端、わずかに蝋の溶ける残り香が
淡い煙に乗り、かすかに私の鼻腔を刺激する。
そして、その刺激に反応するかに、ふと脳裏に父の顔が浮かんできた。
そうか。今まではお父さんがいたから、私は自分の事だけしていられたんだ。
社会経験がないまま、父に嫁いだ母。
だから、従順な妻であったものの、
マイペースで、どこか世間知らずだったことは否めない。
そしてこれまでは、そんな母が本来持つべき表の顔を
全て父が担ってきたのだろう。
だが、父亡き今、それを私が担わなくてはならなくなったというわけだ。
もちろんそれに加え、これからは
母の「老い」というものも少なからず私の肩に掛かるのだろう。
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