第4章  デジャヴの贈り物(続き)

20/32
前へ
/37ページ
次へ
「これね、シチリア地方の歓迎の印なんですって。 ほら美沙ちゃん、玄関に置ける小さな置物が欲しいって言ってたでしょ?  だから、どうかしらと思って」 「うん、とっても可愛い。ありがとう」 今、目の前で嬉しそうに微笑む母は、今までと何ら変わりはない。 だがこれからは少しずつ私たちの間も、そして私の立場も責任も 姿を変えざるを得ないのかもしれない。 四十歳――。 今まで上ってくればよかっただけの、人生のターニングポイント。 だがこれからは、もしかすると下り坂の未来だってあるかもしれない。 どこか漠然とした心許なさと、とうとうこの日を迎えた現実の重み。 私は、そんなものを密かに胸に抱えつつ、 夕方、母のマンションを後にしたのだった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加