45人が本棚に入れています
本棚に追加
「これね、シチリア地方の歓迎の印なんですって。
ほら美沙ちゃん、玄関に置ける小さな置物が欲しいって言ってたでしょ?
だから、どうかしらと思って」
「うん、とっても可愛い。ありがとう」
今、目の前で嬉しそうに微笑む母は、今までと何ら変わりはない。
だがこれからは少しずつ私たちの間も、そして私の立場も責任も
姿を変えざるを得ないのかもしれない。
四十歳――。
今まで上ってくればよかっただけの、人生のターニングポイント。
だがこれからは、もしかすると下り坂の未来だってあるかもしれない。
どこか漠然とした心許なさと、とうとうこの日を迎えた現実の重み。
私は、そんなものを密かに胸に抱えつつ、
夕方、母のマンションを後にしたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!