第4章  デジャヴの贈り物(続き)

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たったグラス一杯のシャンパンに、酔ったわけでもないのだろう。 だが帰路についた私は、すっかり夕飯を作る気力もなく、 横浜駅の近郊で適当に惣菜を見繕って電車に揺られた。 そして自宅の最寄り駅に着いてみれば、既に辺りは宵に暮れかけている。 うわ……、滝嶋のご機嫌が思いやられる。 ここまで遅くなるつもりもなかっただけに、 私は、少し焦って駅前にまだ数台いたタクシーに乗り込んだ。 小さな繁華街をつくっている駅前では、 宵に溶け込む昼の面影に縋るように必死に鳴いている蝉の声が もんわりと渦を巻いている。 そして、恐らく今日も完全に日が暮れて一時間程度は、 まだ暑さが残るのだろう。 その現実にうんざりする反面、昼間に浮かんだ母との未来から 少しだけ目を背けられるこの物理的距離が、 気持ちのどこかをホッとさせていた。
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