第4章  デジャヴの贈り物(続き)

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私は、本の上に視線を戻し 続きになる箇所を探して、数行さらりと目を走らせた。 場面は、疲れてアパートの自室に戻った刑事が、 留守番電話に残された元妻からのメッセージを聞くところ。 『バーバラの声は少し掠れ、そして微かに震えていた。』 この暑さのお陰で程よく氷の溶けたジュースを引き寄せ、 私は、中の氷を小さく突いてゴクリと、大きく一口飲んだ。 しかし、 いくら性能が上がったからって、 留守電で、そんなわずかな掠れや震えなんか分かるもんかしら? 口中には柑橘系の爽やかな香りが広がっているにも関わらず、 私の気持ちは、どうも皮肉っぽくなる。 『都合の良いことを言ってるのは、分かっているの。 でも、あなたにしか相談出来ない事があって……。 お願い、ダグ。帰ったら連絡をちょうだい……。』 それはちょっとないんじゃないかな、バーバラ。 そもそも彼の元を勝手に去ったのは、あなたなんだから。 そして、打ち込み始めた手を止め、私はディスプレイから視線を外した。
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