45人が本棚に入れています
本棚に追加
私は、本の上に視線を戻し
続きになる箇所を探して、数行さらりと目を走らせた。
場面は、疲れてアパートの自室に戻った刑事が、
留守番電話に残された元妻からのメッセージを聞くところ。
『バーバラの声は少し掠れ、そして微かに震えていた。』
この暑さのお陰で程よく氷の溶けたジュースを引き寄せ、
私は、中の氷を小さく突いてゴクリと、大きく一口飲んだ。
しかし、
いくら性能が上がったからって、
留守電で、そんなわずかな掠れや震えなんか分かるもんかしら?
口中には柑橘系の爽やかな香りが広がっているにも関わらず、
私の気持ちは、どうも皮肉っぽくなる。
『都合の良いことを言ってるのは、分かっているの。
でも、あなたにしか相談出来ない事があって……。
お願い、ダグ。帰ったら連絡をちょうだい……。』
それはちょっとないんじゃないかな、バーバラ。
そもそも彼の元を勝手に去ったのは、あなたなんだから。
そして、打ち込み始めた手を止め、私はディスプレイから視線を外した。
最初のコメントを投稿しよう!