TK=T.Koie(鯉江家の人々)

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電車がりんくう常滑駅を通過すると海が見えてきた。海面に反射する太陽の光を見て、少し目が痛くなってしまった。 「隆(たか)くんたち、もう着いたかな」 静かな車内ではしゃいだ声が子供っぽく思えて、南衣(みない)は次の言葉が思いつかず黙る。 (あとちょっとで空港駅に着く。) (あとちょっとで隆くんたちに会える!) …ちらりと隣で本を読んでいる母を見る。長い髪、揺れるピアス。バリバリのキャリアを持っている、みんなが憧れる、仕事の出来る女性。プラダのカバンから、いつでも取り出しやすいようにスマホが覗く。 南衣を産んで3ヶ月で仕事に復帰した母は、たまたま近くで同じ頃に二人目を産んだ鯉江家と仲良くしてもらい、鯉江家の次男、隆史(たかし)と南衣は兄弟のように育った。 南衣にとっても、誇りに思う母。自慢の母。 (…でも) 限られた時間内で、疲れている母に甘えるのは申し訳なく、『母』という言葉を聞くと、自然と鯉江家の母、美智子(みちこ)さんをイメージしてしまう。 鯉江家が長男の隆治(たかはる)君を除いて、一家で転勤したときは、ショックだった。一緒についていきたかったけど、家族じゃない自分は一緒に行くことが出来なかった。 空港駅の改札口を抜けて、周りを見渡す。3階に向かって延びるスロープは出発ロビー。2階に向かって延びるスロープは、会いたい人が待っている到着ロビーだ。 「おかーさん!早く早く!」 南衣は、母を急かす。 離れて暮らしていた間も、鯉江家の父、隆(たか)君と呼んでいる隆方(たかかた)さんと美智子さんとは連絡を取り合い、気にしてもらっていた。13歳になってちょっと成長した自分に、みんながどんな反応をしてくれるのかな、と思うと心はうきうきする。
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